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東京高等裁判所 昭和39年(う)2591号 判決

被告人 寺田金吉

〔抄 録〕

控訴趣意第一点事実誤認の主張について。

所論は、原判示(一)のA子に対する強姦未遂の所為および原判示(二)のB子に対する強姦の所為は、いずれも原審相被告人前芝豊行の単独の所為であり、これに対し被告人は同人と右被害者らに対する強姦の共謀をしたことはないから本件と無関係であるのに、原判決が被告人は前芝と共謀のうえ右各犯行を犯したものと認定したのは事実の誤認であると主張する。

よつて所論に基き、本件記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果を参酌して審按するに、原判決の認定した事実のうちほぼ被告人と前芝との共謀の点を除くその余の部分、すなわち原判示の日時、場所において、前芝が被害者両名を前にして「言うことを聞け、言うことを聞かんと殺すぞ。お前等を殺す位わけはない。」等といつたうえ、原判示のように被害者A子を付近の松林内に連れ込んで強姦未遂の所為に及んだこと、一方被告人は被害者B子に対し原判示の本件自動車内において強姦の目的で原判示のような暴行をしたこと、その後で前芝がB子を強い姦淫したという事実は、原判決の挙示する証拠を総合すれば優に認定できるところである。そこで進んで前芝と被告人との間の共謀の点を審究するに、前芝と被告人とが被害者両名に対する強姦につき明示的な相談等をしたことを認めるに足りる証拠はないのであるが、原判決の挙示する各証拠により認められる、本件各犯行は、夜間、人里離れた原判示の海岸付近で、友人同志である前芝と被告人とが、本件自動車に被害者両名を同乗させてきたうえ前芝が被害者両名を前にして脅迫したさい被告人もその場に居合せついで前芝と被告人とが相前後して前記のような所為に及んでいる等の客観的状況から見ると、一応本件各犯行の直前頃までには前芝と被告人との間に、暗黙のうちに被害者両名を強姦しようとする旨の共謀があつたことを認め得るものの如くである。しかしながら、本件各犯行に至るまでの経過、本件各犯行前後の状況を仔細に検討するときは、以下に述べるように、にわかに右の共謀があつたと断ずることはできない。すなわち、原審第一、二回公判調書中被告人の各供述記載被告人の当審公判廷における供述、被告人の検察官および司法警察員に対する各供述調書、原審第一、二回公判調書中原審相被告人前芝豊行の各供述記載、当審証人前芝豊行の当審公判廷における供述、前芝豊行の検察官および司法警察員に対する各供述調書、A子およびB子の検察官および司法巡査に対する各供述調書、司法警察員作成の実況見分調書(ことに立会人B子、A子の各指示説明部分)を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、前芝と被害者A子とは本件以前からの知合いで、前芝はA子に対し好意をもつていたこと、本件当日前芝がA子をドライブに誘つたところ、A子のほかに被害者B子も同行してきたこと、前芝は右両名を本件自動車に同乗させて走行の途中、被告人方に立ち寄り、被告人に対し、女の子が二人いるから遊びに行こうと誘い、被告人はこれに応じて本件自動車に同乗するようになつたこと、そのさい被告人は自宅から西瓜を二つ車内に持ち込んだこと、本件現場付近に至り、前芝は本件自動車を停車させたこと、そして右四名は車から降り一緒に西瓜を食べたこと、その後前芝は、その場からA子を連れ出そうとして、「二人ずつになつて話をしよう」などと言つたが、A子がこれを拒みB子もまたA子に同調すると、被害者両名を前にして前認定のように脅迫し、被害者らがその言葉に畏怖して黙つてしまうと、被告人やB子に対しては、「お前らはあつちへ行つてろ」と言い、自らはA子の手を掴んでその場から北東方約七〇メートルの松林の中にA子を連れ込んだこと、そして同所においてA子に対し原判示(一)のような強姦未遂の所為に及んだこと、被告人は前芝がA子を右のように連れて行くまでその場に一緒に居たが、被告人自身としては直接本件犯行と結びつくような言動は何もしなかつたこと、前芝がA子を連れ出すや、被告人はその場にあつた本件自動車の中において、B子に対し原判示(二)のような暴行を加えたこと、これに対しB子が抵抗しているとそこへ前芝が来て、「A子が逃げた」と言つたこと、そこで被告人はB子に対する暴行をやめ、前芝と共にA子を探すため本件自動車を北方約七〇メートルの地点に移動させたこと、すると前芝は被告人に対しA子を探がすよう指示し、被告人はこれに応じて車を降りA子を探がしに行つたこと、その後において同地点に停車中の本件自動車内において、前芝はB子を強いて姦淫したものであること、なお、前芝はA子を前記松林の中に連れ込もうとした頃までにはA子に対する強姦の意図を抱いていたが、当時B子に対しては自らまたは被告人と共同して強姦しようとする意思は全くなく、B子に対しては、A子に逃げられ右のように被告人をしてA子を探がしにやつた時にはじめて単独に強姦の決意をしたものであること、また被告人は、前芝がA子を連れ出そうとして被告人やB子に対し、「お前らはあつちへ行つてろ」と言つた時にはじめてB子を強姦しようと決意して前記の暴行に及んだものであるが、A子に対しては自らまたは前芝と共同して強姦しようという意図は全くなかつたこと、等の事実が認められる。以上の事実に徴して窺われることは、成程被告人は前芝と行を共にし、前芝が被害者両名を前にして脅迫行為に及んだ時もその場に居り、その後前芝のA子に対する強姦未遂の行為と相前後して前記のようにB子に対する強姦のための暴行をしているものではあるけれども、直接B子に対して右の暴行行為に出るまでは、前芝が前記のとおり終始一人で積極的な言動をとつているのに反し、被告人は終始消極的であつて前記のとおり直接本件犯行と結びつくような言動はないのであるし、前芝と行を共にし、現場付近に一緒に居たとはいいながら、被告人は当初前芝から女の子が二人いるから遊びに行こうと誘われて本件自動車に同乗したに過ぎなかつたのに、前記の経過で現場に居合わせる破目になつたものと認められ、また前芝も被告人も前記の各犯行に当つては、姦淫の意思も具体的行動も殆ど専ら直接の相手方である被害者に向けられており、他の被害者に対しては無関心であつて(後に被告人がA子を探すようになつたのは、前芝からA子が逃げた旨告げられ、またA子を探がすよう指示されたからに過ぎない)、このように見てくると、本件はまず、前芝においてA子に対する強姦の犯意を生じ、これを実行に移そうとして脅迫の言辞を弄し(そのさいB子もその場に居合せたため両名に対する脅迫のような外観を呉したが、前芝はB子に対しては、姦淫に応じさせようというよりは、A子を連れ出すことに邪魔をさせない趣旨であつたと解される)、その実行に着手したところ、被告人は前芝がA子を連れ去つて後自己とB子が二人になるということが契機となつてB子に対する強姦の犯意を生じたこと、換言すれば右のA子に対する前芝の犯行とB子に対する被告人の犯行とは時間的、場所的に近接しながらもそれぞれ別個、独立の行為と見るのが相当である。

またB子に対する前芝の強姦行為についても、前認定のように被告人のB子に対する強姦行為が未遂のまゝ終り、その後前芝と被告人とで本件自動車を移動させたりしてA子を探がし、更に被告人が車から降りてA子を探がしに行つたさいに犯されたものであつて、その前芝の所為は被告人のそれとは別個にB子を強姦しようと企て、その実行行為に及んだものと認められ、前芝の行為が被告人の強姦(未遂)行為の続きであるとか、被告人と交代してなしたものと認めることは出来ない。

また被告人や前芝豊行の検察官や司法警察員に対する各供述調書のうちには、両名が相談してA子やB子に対する各犯行に及んだ如き記載部分がないではないが、それらの記載は、その調書の冒頭における要約的、抽象的記載であつて具体的な趣旨が不明であつたり、そのような記載に続く具体的な説明がそれと矛盾しむしろかゝる相談や意思連絡をしたものではないことに帰するものであつたり、あるいは他の関係証拠と対比してたやすく信用できないものであつたりして、いずれも採用できないものであり、これらの記載部分があるからといつて前記の判断に影響を及ぼすものではない。

以上のとおりであり、その他本件記録を精査しまた当審における事実取調の結果に徴しても、本件公訴事実中A子に対する強姦未遂の点およびB子に対する強姦(既遂)の点について、前芝と被告人との間に共謀の事実を認定するについては前記の合理的な疑いが解消されないのであるから、結局これらの事実については前芝の単独犯行であつて(被告人のB子に対する強姦未遂の点については後述)、被告人については犯罪の証明がないことに帰するにも拘らず、原判決が被告人に対し右両者について前芝との共謀による犯罪の成立を認めたのは、事実の誤認でありその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。

ところで、当審において、検察官はB子に対する関係で強姦未遂の訴因、罰条を予備的に追加したのであるが、これに対し弁護人および被告人は予備的に追加された訴因と追加前の訴因との間には公訴事実の同一性がないから右の予備的追加は許されない、またB子に対する本件起訴状の公訴事実の記載は不特定であり無効の起訴であるからこれに対する右の予備的追加は許されないと主張する。しかしB子に関する本件起訴状の公訴事実の記載は、「被告人両名は……女工B子(当十八才)を強姦しようと共謀したうえ、昭和三十九年八月四日午後九時頃、自動車で……同女……を磐田郡福田町中島地先の人里離れた淋しい海岸に誘い出したうえ右海岸で同女……に対し『言うことを聞け、言うことを聞かんと殺すぞ、お前等を殺す位わけがない』等と申し向けて脅迫したうえ、……被告人寺田において前記自動車の中で右B子を仰向けに押し倒し、腕で同女の首を締めつけて同女のズロースを脱がせる等の暴行をなした後、被告人前芝において被告人寺田と交替して右B子を押えつけ、強いて同女を姦淫したものである。」というのであり、これに対し本件訴因、罰条を予備的に追加する請求書記載の事実は、「被告人は昭和三十九年八月四日午後九時頃、静岡県磐田郡福田町中島地先海岸において、女工B子(当時十八年)を強姦の目的をもつて、自動車内で仰向けに押し倒し、腕で同女の首を締めつけ、同女のズロースを脱がす等の暴行をしたが、抵抗されたため姦淫の目的を遂げなかつたものである。」というのであつて、後者は前者のうち被告人の行為の部分のみを取り出し、それが被告人単独の強姦の目的でなされ、それが抵抗されたゝめ未遂に終つたとするものであつて、外形的な被告人の行為事実は殆ど同一であり、起訴状においてはそれが前芝との共謀による犯行の一部であつたものを、追加された訴因では被告人の独立の行為となし、起訴状においては被告人のなした暴行が前芝の姦淫行為の手段としてなされたに止まるのか、あるいは被告人自身のなさんとした姦淫行為の手段でもあつたのかの点がやゝ不明確であつたものを(しかし、右起訴状の記載は両方の趣旨を含むものと解することができる)追加された訴因では被告人自身の強姦のための行為であつたと明瞭にしたに過ぎないものであつて、両者が公訴事実の同一性を害しないことは明らかである。また、前記のB子に対する起訴状の公訴事実の記載は右のとおりやゝ明確を欠く部分がないではないが、その趣旨を理解することができないではないうえ、要は被告人と前芝とが共謀のうえそれぞれその記載のような暴行等をなし、前芝が強いて同女を姦淫したとの記載があるのであるから、被告人の暴行が前芝の姦淫行為の手段のみであるか、あるいは被告人の意図した姦淫行為の手段でもあるかによつて、両名共謀による姦淫行為の手段であることに変りはないから訴因の特定に欠けるところはなく、もちろん公訴提起の無効をきたすいわれはない。

以上のとおりであることに加えて、前起の予備的訴因罰条の追加によつて被告人の実質的利益を害することはないと認められるから右訴因、罰条の予備的追加は適法有効である。

(渡辺好 目黒 渡辺達)

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